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東京地方裁判所 昭和34年(レ)231号 判決

控訴人 協同組合中野専問店会

被控訴人 三木常資

主文

一、原判決中、控訴人敗訴の部分を取り消す。

二、被控訴人は控訴人に対し、金一三、八一〇円及びこれに対する昭和三二年三月一六日以降右完済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

三、訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。

四、この判決は、第二、三項に限り仮に執行することができる。

事実

控訴人は、主文第一ないし第三項同旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、当審において損害金を年五分の割合に減縮し、被控訴人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上及び法律上の主張、証拠の提出、認否並びに援用は、控訴人において、「本件チケツト代金は、チケツトを使用した翌月より毎月末日限り一〇分の三、一〇分の三、一〇分の二、一〇分の二の四回に分割して支払う約であつたから原審の主張を訂正する。」と述べ、乙号各証の成立を認め、被控訴人において、「控訴人主張の代金の支払方法は認める。訴外日本電光株式会社は、昭和三一年二月頃、被控訴人の本件債務を免責的に引受けたものである。なお、本件の代金は、被控訴人が控訴人の組合員(加盟店)から購入した商品の代金であつて、チケツトの対価たる代金ではない。なんとなれば、チケツトはそれ自体独立の価値を有せず、被控訴人も控訴人組合の組合員(加盟店)もチケツトを目的物として売買取引を行うものではなく、チケツトは組合員(加盟店)の商品販売及び代金回収を促進する手段に過ぎないからである。被控訴人としては、組合員(加盟店)から商品を買い、ただその商品代金を直接組合員(加盟店)に支払わず、代金取立の代行機関ないしは取立担当者たる控訴人組合に支払うまでのことである。」と述べ、甲号各証の成立を認めた外は、原判決の事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

理由

被控訴人と控訴人との間に、昭和三〇年一一月二二日頃、被控訴人が控訴人の発行する買物クーポンチケツトにより控訴人の組合員(加盟店)より商品を購入したときは、毎月一一日以降翌月一〇日までの代金を、その翌月より毎月末日限り一〇分の三、一〇分の三、一〇分の二、一〇分の二の割合で四回に分割し、控訴人方に持参支払う旨の契約が成立したこと、商品購入の時期は暫く措いて、被控訴人が、右約旨に基き、控訴人発行のチケツトを使用し控訴人組合員(加盟店)より時計等代金二九、六二〇円相当の商品を購入したこと、被控訴人が控訴人に対し、昭和三一年二月一日までに右代金のうち金一一、八七〇円を支払つただけで、残金一七、七五〇円の支払をしないことは、当事者間に争がない。

被控訴人は、訴外日本電光株式会社が昭和三十一年二月頃被控訴人の控訴人に対する右債務を免責的に引受けた旨主張するけれどもこれを認めるに足りる証拠はないから採用し難い。

次に、被控訴人の時効の抗弁について判断する。ところで被控訴人は、被控訴人の控訴人に対する本件債務は小売商人である控訴人の組合員(加盟店)から買受けた商品の代金であつて、ただ右代金を直接組合員(加盟店)に支払わず、代金取立の代行機関ないしは取立担当者である控訴人組合に支払うに過ぎないのであるから、民法第一七三条第一号所定の二年間の短期消滅時効にかかる旨主張する。しかしながら、一定地域を中心に小売商が連合して中小企業等協同組合法による協同組合を結成し、この組合がチケツト(クーポン券)を発行して購入者に交付し、購入者がこのチケツトを使用して組合の加盟店から商品を選択して購入すると、チケツトは加盟店から組合に送付され、組合において購入者に対し代金を月賦で請求集金するという、いわゆる加盟店式の月賦販売契約が、常に被控訴人主張の如く、売買契約は購入者と加盟店との間に成立し、組合はただ加盟店より依頼された代金取立の代行機関或は取立担当者であるということはできない。そこで記録に顕われた限りにおいて、本件における組合(控訴人)、組合員(加盟店)、購入者(被控訴人)の三者の関係を検討してみると、成立に争がない甲第一号証、乙第一号証の一、二、原審における証人張間興国の証言及び被控訴本人の尋問の結果並びに弁論の全趣旨を綜合すると、先ずチケツトを利用して組合員より商品を購入しようとする購入者は、組合が作成したチケツト使用規定を承認の上組合とチケツト使用に関する契約(契約の内容については前記のとおり当事者間に争がない。)を結んで、組合よりチケツトの交付を受け、右チケツトを使用して組合員より好む商品を購入するのであるが、購入者か組合員の店舗において目的物たる商品を特定して引渡を受け同時に商品の価格に相応するチケツトを組合員に交付すると、組合員ではこのチケツトを組合に送付し、組合は購入者より割賦金の支払を受けると否とに拘らず送付されたチケツトの券面額担当の金員を組合員に支払うこと、従つて購入者よりの金員の回収は全く組合の責任においてなし、組合員が直接購入者に対して代金を請求することは予定していないこと、このように組合は代金未納の危険を負担するが故に、却つて当該チケツトを送付して来た組合員に購入者の組合に対する債務を保証せしめていることが認められる。これらの事実によれば、特に反対の事情が認められないから、商品の売買契約は組合員と購入者との間に成立すると解する他はないが、購入者よりの金員の回収が全く組合の責任と危険負担においてなされ、個々の組合員が直接購入者に対して代金を請求することを予定していないところからすれば、購入者の組合員に対する売買代金債務を組合が免責的に引受け、購入者は売買代金債務を免れる代償として組合に対しチケツト使用に関する契約の規定に準拠して割賦金支払債務を負担するものと解するのが相当である。すなわち、控訴人が本訴において請求しているチケツト代金なるものは、被控訴人が組合員より購入した商品の代金そのものではなく(右代金は控訴人組合より組合員に対して支払われる、)被控訴人がチケツト使用に関する契約に基き組合員に対する売買代金債務を控訴人が免責的に引受けた代償として支払うべき債務であるから、民法第一七三条第一号所定の商品の代償ということはできず、十年の消滅時効に服するものといわなければならない。よつて、被控訴人の時効の抗弁も採用するに由ない。

しからば、被控訴人は控訴人に対し、金一七、七五〇円及びこれに対する控訴人、被控訴人のいずれの主張によるも弁済期の後である昭和三二年三月一六日以降右完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、控訴人の本訴請求は全部正当として認容すべきである。よつて、これと異る見解の下に控訴人の本訴請求を一部棄却した原判決は失当であつて本件控訴は理由があるから、原判決中控訴人敗訴の部分を取り消して、控訴人の請求を認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条第九六条を、仮執行の宣言について同法第一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡部行男 柴田久雄 古澤博)

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